100年前の油絵をなおす―田中苔石「日解聖人肖像」ー
2024/12/03
■主な損傷
画面右下にキャンバスの破れがあり、その周辺は四角い凸状にキャンバスが変形していることが分かる。
その部分裏面には、破れを補強するためにキャンバス片が接着されている。キャンバスの四角い凸状の変形は、このキャンバス片を貼る糊によってキャンバスが収縮したため生じたことが分かる。
■修復処置(一部内容)
●画面洗浄:経年の埃汚れ、変色した旧ワニスの洗浄除去
●キャンバス片の除去
●キャンバスの変形修正:バキュームで加圧しながらホットテーブルで作品を加温しキャンバスの変形を整形
●キャンバス破れの補強とストリップライニング(作品裏面):木枠にキャンバスを張り込むために弱くなった作品四辺にキャンバス帯を接着し補強
●キャンバス破れ部分の充填・整形・補彩:キャンバス破れにより絵具が剥落部分の処置
―修復前(キャンバスの破れ部分:旧補彩あり)-
ー充填・整形:ボローニャ石膏で絵具の剥落部分を充填・整形ー
ー補彩:修復用樹脂絵具で充填部分を補彩-
■修復後
岡山市津島にある日蓮宗不受不施派の古刹「鷲林山妙善寺」。いつもきれいに整えられた庭、本堂にはずらりと歴代の聖人の肖像画が並ぶ。
その中の一枚、田中苔石が描いた「日解聖人肖像」、画面左下には1921と制作年が記されている。
毎朝のお勤めにはじまり、最も人の集まる本堂に長くかけられていた肖像画たち。
お寺の皆さんとなんとか長いはしごで下ろしてみる。
作品裏に堆積した埃汚れは、これらの肖像画がその変わらない場所で、ずっとお寺の営みを見守ってきた証。
本堂に掲げられた肖像画はすべて、この度の修復で画面洗浄させていただき、画面保護アクリルが設置されました。
これからも永くお寺を見守って下さい。
また、掲載を快諾下さいました妙善寺の皆様にお礼申し上げます。