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修復とは?

修復とは?

芸術作品とは? 修復とは?

「修復は、芸術作品を未来へと伝達することを目的として、芸術作品の物理的実体と、対極をなす美的および歴史的な二面性において芸術作品を認識する方法論的な瞬間を成り立たせる。」
(修復の理論 チェーザレ・ブランディ:小佐野重利監訳 池上英洋・大竹秀美訳)

チェーザレ・ブランディ(Cesare Brandi)というイタリア人の言葉です。

チェーザレ・ブランディは、ローマ中央修復研究所を1939年に創設し、長年所長を務めた方です。この研究所は、現在もイタリアに2カ所ある国立の修復研究所の一つですが、彼の著書「修復の理論」は、イタリアをはじめヨーロッパの修復に対する考え方の原点になっており、イタリアの修復専門学校ではまず1年目に彼の「修復理論」を学びます。

芸術作品とは、そもそも絵具・キャンバスなどの物質から作家が創り上げた、いわゆる「モノ(物理的実体)」なのですが、それに他のモノにはない「美しさ」と「時間・歴史」が加わったモノだと考えられます。時間(歴史)と美しさ、作家の技術の調和がとれたモノが芸術作品であると。

芸術作品は、時間(歴史)を経るごとにその価値を増す一方、芸術作品はモノであるがゆえに、時間とともに進む劣化を避けることができません。
時間(歴史)と美しさ、作家の技術の調和がとれたモノが芸術作品であるならば、その調和を保つため、あるいは、調和を保ちながら傷みを治すのが修復であると。

それでは、どう修復するか?

  • 可逆性のある素材を使って修復を行う。
  • 必要最小限かつ効果的な処置を行う。

これが、修復を行う上で重要なことです。
「可逆性のある素材」とは、接着剤であれ絵具であれ、必要とあれば後年になっても作品から簡単に取り除ける素材ということです。 ​

私たちの工房にも、剥がれかけた絵具の上に油絵具を塗り重ねた作品が持ち込まれることがあります。確かに、剥がれかけた絵具は加筆された油絵具でキャンバスに留まっている。しかし、画面に広がる「接着剤代わりの油絵具」は明らかにオリジナルの色彩を損ねています。
しかもその加筆は、ただでさえ危ういオリジナル絵具層の表層に頑固に固まっていて、加筆の洗浄にはかなりの労力と危険が伴います。油彩画修復で使用する絵具には油絵具を使用しません。弱い溶剤で洗浄除去できる色材を使い、どこがオリジナルでどこが修復か所なのか、後年になっても判別が出来るように処置されるのです。

作者のオリジナル性を最大限に残すため、最小限で効果的な修復処置を行う。

これが、私たち修復士の仕事です。

芸術作品イメージ図
修復前
修復後 紫外線照射写真:黒く見えているのが古い補彩跡
紫外線照射写真:黒く見えているのが古い補彩跡