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油彩画の修復処置

作品の状態・素材を詳しく調査し、作品が今後より良い状態で保存・鑑賞されるよう作品毎に適した修復処置内容をご提案いたします。

一つとして同じ作品が無いように、また、作品の歩んできた環境がそれぞれ異なるように、それぞれの作品が抱える損傷は異なります。
作品を詳細に調査し、作品毎に適した処置を計画すること・修復材料の選択を行うことが必要です。
作品が永く保存・鑑賞されていくように、最小限かつ最大限効果のある修復処置を検討しご提案いたします。

作品調査

作品調査
作品の素材・損傷状況について詳しく調査します。調査を基に作品に適した修復計画をたてます。
修復前の作品損傷状況の各種写真撮影を行い記録に残します。
 
斜光照射写真
斜光照射写真
紫外線写真
紫外線写真
実体顕微鏡写真
実体顕微鏡写真
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作品カルテの作成

作品カルテの作成
作品調査内容を基にカルテを作成します。
カルテには、作品の構成素材、損傷状況、修復処置内容を記録します。

画面洗浄

画面洗浄
作品調査結果(絵具の状態・汚れの種類)をもとに、洗浄テストを行い適した溶剤を選択します。
 
洗浄前
洗浄前
洗浄後
洗浄後

キャンバス裏面の掃除

キャンバス裏面の掃除
キャンバス裏面は、経年の埃よごれ、黴などが付着していることが多いものです。
ただし、裏面キャンバスはとても湿気に敏感な場所です。
しっかりと画面保護した後、裏面の汚れを乾式掃除します。

キャンバスの変形修正

キャンバスの変形修正
経年の湿気によるキャンバスの伸縮により、波うち、凹凸状の変形が見られる場合、その変形修正を行います。
作品に負担をかけやすい加温・加圧による変形修正をできる限り避けるため、紙の伸縮を利用した独自のストレッチャーで時間をかけキャンバスの変形修正を行います。

木枠へのキャンバス張り直し

木枠へのキャンバス張り直し
オリジナルの木枠には、作者サイン、制作年代のヒントとなる木枠制作メーカーの押し印等がある場合があります。
ですので、オリジナル木枠をできる限り再利用する方針ですが、木枠に反り、接合部の開き等が見られる場合はご依頼者様に確認の上、木枠を新調し、作品キャンバスを木枠に張りなおします。

絵具層の補強

絵具層の補強
絵具層に生じた亀裂や剥離部分に適した接着剤を選択し、小筆等で浸透させます。
その後、亀裂やキャンバスから反り返った絵具層を電気ごてで適温に温めながら再定着を促します。

絵具層剥落部分の充填

絵具層剥落部分の充填
絵具の剥落部分に適した充填剤を充填します。
主に使用するのは、ボローニャ石膏を膠で溶いた充填剤です。
この充填剤は、古くから板絵の地塗りに使用されてきました。
後年になっても温水で簡単に取り除くことができ、オリジナル絵具層と修復箇所の判別を明らかにすることができます。

充填部分の整形

充填部分の整形
絵具剥落部分に充填した充填剤を画面のマチエールに合わせて整形します。
絵具の剥落で途切れてしまった筆のタッチを、可能な限り再現します。

充填部分の補彩

充填部分の補彩
充填整形した部分に色を補います。
使用する色材は、水彩絵具、修復用樹脂絵具です。
後年になっても、水彩絵具は水で、樹脂絵具はペトロールなどの弱い溶剤で容易に除去が可能です。
色調はあくまでもオリジナルに近く、しかし、後年になっても除去が容易であるよう作品への定着は優しい色材を使用することが私たち修復士の基本です。

画面保護ワニスの塗布

作品の絵具層が、外気の有害ガスによる劣化、埃等の汚れの付着および外傷を受けるリスクを減らすため適した画面保護ワニスを塗布します。
高過ぎるワニスの光沢はかえってオリジナル作品の色彩印象を変えてしまうものです。
ワニスの光沢の調整により、オリジナル作品本来の光沢に可能な限り近づけます。​

修復報告書の作成

修復報告書の作成
作品調査結果・修復処置内容を詳細な写真と共にご報告いたします。​
 
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